電気科の苦悩

色々やっています

魔剤アンテナ(カンテナ)を作ろう

はじめに

 先日、無線部のある大学間で交流がありました。そこで、私の所属する社団でも発表を行いました。プレゼンの内容は今までやってきたこと、コンテストの結果、変なものを作ったなどをまとめたもので、その中で魔剤アンテナというアンテナを作ったという発表を行ったところ、意外にもウケがよく、作ってみたいという人がいました。本記事ではその作り方を伝授する記事になっています。

 今年の新歓の時に作った部誌のために作った記事を再構築したものになっています。

 

 

 

どうして魔剤なの?

 魔剤アンテナとは、Monster Energyというエナジードリンクの缶を使ったアンテナの事である。"魔剤" はMonster Energyの暗語のようなもので、この手の飲料水を飲む事を魔剤をキメると言ったりする。また、圧倒的な糖分量とカフェイン量とその他諸々のヤバそうな成分によってパフォーマンスが劇的に向上する

 大学生は日々の生活にて、レポートや期末試験、アルバイトなど様々な事を捌いていかなければならず、正気を保つことは難しい。そこで、魔剤をキメる事によって円滑に物事を進めていく。

 魔剤はこのように、強そうなイメージが少なくとも大学生の間では根付いている。従って、魔剤でアンテナを作れば強そうになることが容易に予想できる

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魔剤アンテナの理論

 ふざけたアンテナと思われるかもしれませんが、ちゃんとした理論の上に魔剤アンテナがあるということを示します。間違った考えかもしれないので、真面目に読まなくても良いと思います。

 結論から述べると、魔剤アンテナはグランドプレーン型のアンテナです。所謂GPというものになります。また、缶で作られたアンテナなので、カンテナとも呼ばれます。カンテナで検索すると、OMの皆様がビールの缶でカンテナを作っている記事が出てきます。魔剤アンテナはビール缶を魔剤缶に変えただけの物になります。

 さて、GPの仕組みをざっくりと考えていきましょう。アンテナが電波を送り出す時、無線機から送り出された信号がアンテナの導体部で共振を起こすことで、外部に電波を飛ばします。アンテナが共振するためには、紐の振動と同じように、振動する波の波長が関係してきます。ここで、送信したい信号の波長を\lambdaと置くと、\frac{\lambda}{2}の長さであるアンテナが共振します。

 例えば144 MHzのアンテナの場合を考えると、電磁波の速度は光速に等しく、光速をcと置く時、c=0.3 \times10^9m/s=0.3 \times10^3Mm/s=300Mm/sとなります。

(あまり速度に接頭辞を付ける事を見たことが無いですが、話を簡単にするためにこのようにします。Mはメガのことで、10^6を表し、Gはギガのことで、10^9を表します。光速はおよそ0.3Gm/s=0.3 \times10^9m/sと覚えておくと便利です。)

 波長は波の基本公式v=f\lambdaより、v,fはそれぞれMの接頭辞を持っているとすると\displaystyle \lambda = \frac{300}{f} となり、これに144MHzを代入すると \lambda = \frac{300}{144} \simeq 2となり、波長がおよそ2mになる事が分かります。 

 以上より、144Mhzの波長は2mなので、アンテナの長さは波長の半分の1mであれば良いことになります。ワイヤーでダイポールアンテナを作る時はこの様な計算と短縮率を考慮していくことになります。

 GPはもう一歩この話から先に進む必要があります。GPの最大の特徴は接地を利用することにより、アンテナの長さを2倍に見せるという点にあります。電磁気学では電気影像法という考え方があります。無限に広い導体の平板があったとして、その上側に電荷を持った物体を持ってくると、平板がまるで鏡のように振る舞うといった考え方です。つまり接地をすると接地面を介して鏡の向こうに同じ長さのアンテナがあるように見えるわけです。

 図にすると次のようにモデル化できます。

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この図のように、アンテナの長さを実質的に2分の1波長にするには実際には4分の1波長にすれば良いことになります。

 そうは言っても、接地を取るのはなかなか面倒くさいのが実情です。擬似的に接地を行うために、ラジアルを生やします。ラジアルの良し悪しによって、接地面に限りなく近い状態に出来るかどうかが変わるわけで、ラジアルの調節をして特性をあわせるという事の背景にはこのような理論があるからだと思われます。

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 魔剤アンテナの魔剤部分は上の図の1/4波長の所になります。

 

魔剤アンテナを作ろう

 前述のような理論に基づいて、魔剤アンテナを設計していきます。まずは魔剤アンテナの周波数を決めます。ある意味ここが一番重要になります。

 魔剤の缶の長さを計測した所、缶の飲み口部分から底までの長さはおよそ15cmとなりました。次に、アマチュア無線で使える周波数の中で、波長の4分の1が15cmに近い物はどれかと探しました。

 430MHzの波長が条件に合う事が計算した所分かりました。波長を求めてみます。

\lambda=\frac{300}{430}\simeq0.7m=70cmなので、\frac{\lambda}{4}=17.5cmとなりました。魔剤の長さは15cmなので、理想的な値よりも小さく共振点が430MHzよりも高くなる予感がしましたが、だいたい合っているので430MHzでいいでしょう

 次に設計に入ります。はじめに設計図を示します。

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 手書きで見にくいですが、アンテナとの接続部分はM型コネクタを使いました。Mコネはできる限り大きい方が施工しやすいので、8Dか10D用の物を用意すると良いと思います。私は8D用のMコネを使いました。ビスの規格はΦ=3mm、長さ50mmのものが一番良かったです。ワッシャーはとにかく外径が大きい物であれば大丈夫です。ワッシャーはホームセンターで買えましたが、ビスは目当ての物が無かったので、秋葉原西川電子部品にて探しました。長さが50mmのビスって珍しいですよね。

 Mコネは本来同軸の心線が中心の端子に入り、はんだ付けをして使います。今回は、長めのビスを用いて魔剤の底に穴を開けてナットを付けてビスを固定し、底から伸びたビスに絶縁用のスポンジを付け、スポンジの上に大きめのワッシャーを置き、スポンジの中心にビスが貫ける程度の穴を開けてビスをワッシャーの穴に通し、出てきたビスにMコネの中心部分が入るように持っていきました。図にすると次のような感じです。

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 ビスがMコネの中心部分に来たら、Mコネを同軸に付ける時と同様にして、ハンダをMコネから流し込み、ビスとMコネをはんだ付けします。これで、魔剤缶とMコネの中心部分の信号線が導通します。テスターでMコネの中心部分と魔剤缶の外側が導通しているかをチェックしましょう。また、Mコネの外導体と短絡していない事を確認しましょう。

 次に、Mコネの根本とワッシャーをハンダ付けして無理やり固定します。この作業がかなり面倒くさいです。ある程度高出力なハンダゴテを使わないと、うまくくっついてくれません。私は75Wぐらいのハンダゴテを使いました。千石電商で売っていたハンダゴテの中で一番安くて一番ハイパワーなものを買って使いました。

 Mコネとワッシャーを接続したら、ラジアルを付けていきます。ラジアルの長さは430MHzの波長の4分の1で良いです。なので、17.5cmにします。素材としては、ある程度強度がある導体であれば良いと思います。私は太めの銅線を使いました。ニッパー等で銅線を切ってワッシャーにはんだ付けします。

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予め上図のようにワッシャーにはんだ付けしておいた方が絶縁体が溶けずに済むので楽です。(ハンダ付け以外にもっと良い方法は無いのでしょうか・・・?)

 これらを組み立てて、魔剤アンテナの完成です。やったぜ。

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 完成するとこんな感じになります。1回目に製作した魔剤アンテナをAA600で計測してみたら、共振点がずれました。

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 もう一度別個体で作り直した所、430付近でしっかり共振するアンテナになりました。SWRを調整する場合は、ラジアルをカットすることによって行って下さい。なので予め少し長めのラジアルにしておくと調節しやすいかもしれません。私は17cmにして無調整でうまくいきました。

 

飛ぶのか?

 実際に運用してみた所、50W入力で東京都内から交信した所、同じく東京都の局であれば問題なく送受信ができる感じでした。魔剤アンテナと同種のGPアンテナであるX7000と併用して使っていましたが、x7000ではクリアに聞こえている局なのに、魔剤アンテナに切り替えた瞬間に跡形もなく消えるという事がありました。やはり市販のアンテナはすごいんだなあと感じました。

 

まとめ

 魔剤アンテナはしっかりとした計測器がある環境で作れば、簡単に作ることができます。仕組みも面白いので、作って遊んでみましょう。

 

補足

 マッチングに関しては、取らなくても大体50Ω程度のインピーダンスになっています。AA-600で確認したらそうなっていました。カンテナでマッチングを取ろうと思ってもなかなか施工が難しそうな気がするので、コネクタとラジアルを付けてうまいことなったのは幸運だったと思います。元々の魔剤の形はアンテナになることを想定されていた・・・?

 

参考文献

・430MHzかんてな

:「http://www.cqcqcq.org/testji/430mhzkantena/430kantena.html」(4/3アクセス)

 

・カンテナとAWXアンテナのSWR測定

:「https://blog.goo.ne.jp/jg0axt/e/ef752a5eb48beb9c198a26c2d2f5138a」(4/3アクセス)

 

・無線工学の基礎(1アマの無線工学)

:「http://www.gxk.jp/elec/musen/1ama/index.html」(4/3アクセス)